2016年11月17日木曜日

リクラスト点滴静注液 5 mg(ゾレドロン酸水和物) 1年1回注射するだけの骨粗鬆症治療薬 


ビスホスホネート系薬であるゾレドロン酸水和物の4mg製剤はゾメタ点滴静注として「悪性腫瘍による高カルシウム血症」「多発性骨髄腫による骨病変及び固形癌骨転移による骨病変」の効能・効果で承認されています。

リクラスト点滴静注液は、そのゾレドロン酸水和物を有効成分とする注射剤です。

ビスホスホネート系薬剤は国内外において骨粗鬆症の治療薬として汎用されていますが経口剤では吸収率の低下や上部消化管の粘膜刺激による消化管障害の副作用回避の観点から、朝食の30分以上前に服用する必要があり、服用後少なくとも 30分は横にならない等の制約があります。

これらの服薬時の制約から患者さん忘れず飲み続けることが困難になっています。
そのため、骨粗鬆症の治療薬開発ではこれまで投与頻度の少ない経口剤や注射剤の開発が行われてきました。

リクラストは既存のビスホスホネート系薬剤の経口剤及び注射剤より投与間隔を長くすることに成功し1年間に1回投与で良いことが特徴です。コンプライアンスの向上が期待されているお薬です。


リクラストは2007年8月にアメリカにおいて閉経後骨粗鬆症の治療の適応症、2007年 10月にヨーロッパで骨折リスクの高い閉経後骨粗鬆症の治療の適応症として承認されています。


日本におけるビスホスホネート系薬剤の注射剤
アレンドロン酸ナトリウム水和物注射液(4週間に1回点滴静脈内投与製剤)
イバンドロン酸ナトリウム水和物注射液(1カ月に1回静脈内投与製剤)

日本におけるビスホスホネート系薬剤の経口剤
アレンドロン酸ナトリウム水和物錠(連日投与製剤及び週1回投与製剤)
リセドロン酸ナトリウム水和物錠(連日投与製剤、週1回投与製剤及び1カ月に1 回投与製剤)
ミノドロン酸水和物錠(連日投与製剤及び4週間に1回投与製剤)
エチドロン酸二ナトリウム水和物錠(連日投与製剤)
イバンドロン酸ナトリウム水和物錠(1カ月に1回投与製剤)


リクラストの作用機序


ビスホスホネート系薬剤は構造的に3つの世代に分けられます。
側鎖に窒素を含まないものが第一世代、
側鎖に窒素を含み環状構造を有さないものが第二世代、
側鎖に窒素を含み環状構造を有するものが第三世代とされています。

リクラストの成分ゾレドロン酸は第三世代に分類されます。


側鎖に窒素を含む第三世代ビスフォスホネートの標的分子は、メバロン酸代謝経路のファルネシルピロリン酸(FPP)合成酵素です。
この酵素の阻害によって、Ras、Rho、Rabなどの低分子量GTP結合タンパク質のプレニル化が阻害されることで破骨細胞の機能を喪失させ骨吸収抑制作用を示すと考えられています。

ヒト組換えファルネシル二リン酸合成酵素(FPPS)に対する IC50値は、
ゾレドロン酸、パミドロン酸、アレンドロン酸、イバンドロン酸、リセドロン酸及びミノドロン酸でそれぞれ、0.003、0.20、0.05、0.02、0.01 及び 0.003 μmol/L であることが報告されています
J Pharmacol ExpTher 2001; 296: 235-42
http://jpet.aspetjournals.org/content/296/2/235.long
PMID:11160603

高カルシウム血症モデルラットにおいて、ゾレドロン酸は、エチドロン酸、クロ
ドロン酸、パミドロン酸、アレンドロン酸及びリセドロン酸と比較して強い血中カルシウム濃度上昇抑制作用を示すことがわかっています。

ゾレドロン酸はアレンドロン酸、エチドロン酸、パミドロン酸、イバンドロン酸及びリセドロン酸と同程度の骨親和性を有することが報告されています
Bone 2006; 38: 628-36
http://www.thebonejournal.com/article/S8756-3282(05)00320-0/abstract
PMID:16185944

ゾレドロン酸のラット単回皮下投与時の骨移行性は約55.8%、骨中半減期は 300~500 日でした。
ゾレドロン酸は他のビスホスホネート系薬剤と同様に、高い骨親和性/骨移行性及び長い骨中半減期により、持続的に作用を発現すると考えられています。


リクラスト1回5mgの理由


国内第I相単回投与試験において原発性骨粗鬆症患者を対象にリクラスト4 mg又は5 mgを単回投与した結果、投与 12 カ月後において骨吸収マーカーは低下していましたけれど、用量間でその推移に大きな違いは認められず、安全性についても、4 mgと 5 mg で大きな違いは認められませんでした。

海外では承認用法・用量として、5 mgの年1回投与が選択されています。
その理由には、海外第II相試験で4 mgの年1回投与群で骨密度が増加したけれども骨吸収マーカーは投与1カ月維持されず上昇する傾向が認められたというのがあります。

海外第Ⅲ相骨折抑制試験では、用法・用量として5 mgの年 1 回投与が設定され、主要評価項目である投与36カ月間の新規椎体骨折発生率についてリクラスト群のプラセボ群に対する優越性が認められました。
骨吸収マーカーについてもリクラスト群では投与36カ月後においても抑制されていました。

国内第Ⅲ相骨折抑制試験では、海外の承認用法・用量でもある本剤5mgの年1回投与での有効性及び安全性が検討されました。
その結果、主要評価項目とされた投与24カ月間の新規椎体骨折の累積発生率において本剤 5 mg 群のプラセボ群に対する優越性が示されました。

安全性について、副作用の発現割合はプラセボ群と比較してリクラスト群で高い傾向が認められましたが、有害事象の発現割合に投与群間で大きな違いはなく、副作用と判断された事象のうち重篤な事象を発現した例数は、リクラスト群とプラセボ群で大きな違いは認められませんでした。

以上から、用法・用量は、海外と同じ 5 mg の年 1 回投与となっています。


腎機能低下患者への投与には注意


米国食品医薬品局(FDA)により有害事象報告システム(AERS)に 2007 年 4 月から 2009年 2 月までに報告されたリクラストの投与と関連する腎機能障害又は急性腎不全を発現した24症例の評価がなされ、注意喚起がされました。
しかし、その後も腎不全による透析症例、死亡症例が報告されたことをうけアメリカの添付文書において、CLcrが35mL/min 未満の患者及び急性腎機能障害の
所見を有する患者が禁忌に設定されました。
また、リクラスト投与前の血清クレアチニンが基準値範囲内でも CLcrが35 mL/min 未満に該当する症例が認められたこと等を踏まえ、本剤の各投与前に、血清クレアチニンではなく体重を基にCockcroft-Gault式を用いてCLcrを算出する旨の注意喚起がなされました。
さらに、ベースラインの腎機能障害にかかわらず、体液の減少などを含む急性疾患の患者では腎機能障害のリスクが上昇することから、脱水の既往もしくはその身体的兆候が認められる患者では、細胞外液量が正常に戻るまでリクラストによる治療を延期すべきである旨が注意喚起されました。

http://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/DrugSafetyNewsletter/ucm167883.htm

日本でも海外と同様にCLcrが35mL/min未満の重度の腎機能障害患者を禁忌に設定されています。
また投与前に CLcr 等を算出して腎機能の評価を行い、投与の可否を判断する旨を注意喚起しています。
海外において腎不全発現時に脱水症が認められていることを踏まえると、脱水症の進行が腎不全発現の重要な原因と考えられることから、脱水状態にある患者(脱水症状を有する患者や高熱、高度の下痢や嘔吐等
のある患者)を禁忌に設定しています。


高齢者の投与に注意


国内臨床試験においてリクラスト群の75歳超の集団における腎機能障害関連事象の発現割合が他の年齢別の集団と比較して高く、プラセボ群と比較してもその発現割合が高いことが報告されています。高齢者は腎機能も低下していることからも投与に際しては注意すべきであると言えるでしょう。


男性への投与


男性骨粗鬆症患者については、海外において臨床試験が2つ実施されています。
1つめ試験は、原発性骨粗鬆症又は性腺機能低下症に続発する骨粗鬆症を有する
男性患者を対象に、リクラスト5 mg を1年に1回2年間点滴静脈内投与とアレンドロン酸ナトリウム水和物70mgを週1回2年間経口投与が比較された実薬対照無作為化二重盲検並行群間比較試験です。
主要評価項目とされたベースラインから投与24カ月後の腰椎骨密度の変化率は、
アレンドロン酸群6.20±0.39%、
リクラスト群 6.07±0.38%で、
変化率の群間差(リクラスト群-アレンドロン酸群)と
その 95%信頼区間は-0.13[-1.12, 0.85]%でした。
リクラスト群のアレンドロン酸群に対する非劣性が示されました。

2つめの試験は、原発性骨粗鬆症又は性腺機能低下症に続発する骨粗鬆症を有する男性患者を対象に、プラセボ又はリクラスト5 mg を 1 年に 1 回、2 年間点滴静脈内投与されたプラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験です。

主要評価項目とされた投与24カ月間の新規椎体骨折発生率は
プラセボ群 4.9%(28/574 例)、
リクラスト群 1.6%(9/553 例)で、
相対リスクとその 95%信頼区間は、0.33[0.16, 0.70]でした。
リクラスト群のプラセボ群に対する優越性が示されました。

男性骨粗鬆症患者においても女性骨粗鬆症患者と同程度の有効性が期待できると考えられます。



[効能又は効果]
骨粗鬆症

[用法及び用量]
通常、成人には 1 年に 1 回ゾレドロン酸として 5 mg を 15 分以上かけて点滴静脈内投与する。