肺動脈性肺高血圧症治療薬ウプトラビ錠(セレキシパグ)


肺動脈性肺高血圧症を含む肺高血圧は予後不良の希少疾患です。なんらかの原因で持続的に肺動脈圧が上昇し、日常的に息切れや疲労を来すだけでなく、心臓の過負荷により致死的な心不全をしばしば引き起こします。患者は21~40歳の女性が最も多いといわれています。


既存の肺動脈性肺高血圧症治療薬の問題点

これまでの点滴薬や静注薬は煩雑な治療を必要とし,疾患が進行するまで治療を受けない患者も多くいました。

日本では肺動脈性肺高血圧の治療に用いる PGI2製剤として、
エポプロステノールナトリウム(持続静脈内投与)、
トレプロスト(トレプロスチニルの持続静脈内投与及び持続皮下投与)、
ベンテイビス(イロプロスト吸入投与)及び
ドルナー、プロサイリン(ベラプロストナトリウムの経口投与)
が承認されています。

エポプロステノールナトリウムとトレプロスチニルの使用にあたっては専用の医療機器を患者が装着する必要があります。
また、イロプロストは、半減期が短く、1 日に 6~9 回の吸入が必要です。
なお、経口投与可能な PGI2 製剤としてベラプロストナトリウムが日本で承認されていますが、欧米では承認されていません。
そのため、国内外の治療ガイドラインにおいてもエビデンスレベルや推奨度は高くありません。

以上のような問題点を解決するため、経口投与可能で血中持続時間の長いプロスタサイクリン受容体作動薬である本剤のウプトラビ錠の開発が行われました。


ウプトラビ錠の作用機序


ウプトラビ錠(セレキシパグ)は体内にて活性代謝物(MRE-269)になります、主にMRE-269がプロスタサイクリン受容体に作用します。
その結果、肺動脈平滑筋細胞内のcAMPを増加させ、肺動脈平滑筋細胞の弛緩及び増殖抑制を介して、肺血行動態を改善させます。

製品インタビューフォームより



ウプトラビ錠(セレキシパグ)の有効性と安全性

プラセボ群と比べ主要評価項目(全死亡+PAHに関連した合併症)発生率が40%有意に低下しました。

第Ⅲ相ランダム化二重盲検プラセボ対照事象観察GRIPHON試験では、

肺動脈性肺高血圧治療を現在受けていない患者、
エンドセリン受容体拮抗薬かホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬、または両薬併用を継続している患者1156例を

プラセボ群とセレキシパグ群にランダムに振り分けました。

セレキシパグ群は最大用量を1600μg1日2回とし,患者ごとに用量調節を行いました。

主要評価項目は,全死亡と肺動脈性肺高血圧に関連した合併症の複合評価としました。各患者がセレキシパグ、プラセボのいずれかを最後に服用してから7日後まで追跡を行いました。

主要評価項目のイベントは合計397例で発生ししました。
発生率はプラセボ群の41.6%に比べて、セレキシパグ群では27.0%と有意に低い結果となりました
〔ハザード比(HR)0.60,99%CI 0.46~0.78,P<0.001〕。

イベントの種類は、81.9%が疾患進行と入院でした。
治療を既に受けているか否かによる解析でもセレキシパグの有効性は全体解析と同等でした。

試験終了までにプラセボ群で105例,セレキシパグ群で100例が死亡しました。死亡率については両群間で有意差は認められませんでした。
セレキシパグ群で多く見られた有害事象は、頭痛、下痢、悪心、筋痛、顎痛などで、いずれも従来のプロスタサイクリン治療による副作用と一致していました。

Sitbon O,et al.,Selexipag for the Treatment of Pulmonary Arterial Hypertension.N Engl J Med. 2015 Dec 24;373(26):2522-33. doi: 10.1056/NEJMoa1503184
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1503184
PMID:26699168


用法及び用量


肺動脈性肺高血圧治療に用いられる PGI2 製剤では、
忍容性が認められた患者には患者毎の最大耐用量まで積極的に増量することで有効性が向上することが確認されています。

一方で、高用量から治療を開始すると、低血圧、頭痛、下痢、顎痛、筋肉痛、潮紅、悪心等、PGI2 に関連した有害事象が起こり、忍容性低下又は不良になることがあります。また、その感受性には大きな個人差があることから、低用量から開始し、忍容性を確認しながら患者毎の最大耐用量まで漸増する投与方法が PGI2 製剤で一般に行われています。

ウプトラビ錠でも同様に
1 回 0.2 mg を 1 日 2 回食後経口投与から開始する。忍容性を確認しながら、7 日以上の間隔で 1 回量として 0.2 mg ずつ最大耐用量まで増量して維持用量を決定します。
最高用量は 1 回 1.6 mgです。


まとめ

肺動脈性肺高血圧症は肺動脈の血圧が何らかの原因で異常に上昇し、右心不全による突然死を招く予後不良な疾患です。
治療薬には肺動脈の血管拡張を促す経路であるプロスタサイクリンや一酸化窒素、エンドセリンに働きかける3種類の薬剤があります。
最近は3種類を治療初期から併用することが多くあります。

既存治療の課題はプロスタサイクリンです。
代謝されやすい性質のため内服薬や吸入剤では長時間効く効果的な薬がありませんでした。
静注製剤はそのなかでも最も効果的な治療法ですが、携帯型輸液ポンプを装着して持続的に投与する必要があるため患者の身体的な負担やQOLの観点から、そこまでしてやりたくないという患者もいました。

ウプトラビ錠は、世界で初めて経口投与が可能となった選択的プロスタサイクリン受容体作動薬。
経口剤なので患者負担が少なく、半減期が約8時間で既存薬よりも長い薬効が期待できます。
これまで静注製剤を使っていた患者でも同剤への切り替えが可能なケースもあり、発売を待っている患者がたくさんいると思われます。