ベンテイビス吸入液 10 μg(イロプロスト) 肺動脈性肺高血圧症治療薬 


ベンテイビス吸入液は、イロプロストの吸入用製剤です。

携帯用ネブライザー(I-neb)を用いて患者自身が簡便に投与可能なプロスタグランジンI2(PGI2)製剤として開発されました。

イロプロストは、PGI2誘導体です。


イロプロストは血管拡張作用及び血小板凝集抑制作用を示すことにより、肺動脈性肺高血圧症の病態を改善することが期待されています。

日本では肺動脈性肺高血圧症の治療に用いるPGI2誘導体としてエポプロステノール(フローラン)やトレプロスチニル(トレプロスト)などが承認されています。

しかし、これら薬剤は持続的な静脈内投与や皮下投与が必要です。

また、注射部位疼痛等の副作用や中心静脈カテーテルに関連する感染症等の合併症等のリスクがあります。

そのため、もっと簡便な薬が患者さんから希望されていました。

そこで、肺動脈性肺高血圧症患者の会である特定非営利法人PAHの会より本剤の開発要望が提出され、厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において、厚生労働省から製薬メーカーに対して開発要請がなされました。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/kaihatsuyousei/
平成22年5月21日付医政研発0521第1号、薬食審査発 0521 第1号


世界的にはヨーロッパで2003年9月に「原発性肺高血圧症」、アメリカでは2004年12月に「肺動脈性肺高血圧症」の効能・効果で承認されています。



類薬との比較、切り替え及び使い分け

2013年12月に公表された第5回WHO肺高血圧症ワールドシンポジウムの推奨治療アルゴリズムにおいて、ベンテイビス吸入液は WHO 機能分類クラスIIIの初期治療に対してClassI(Is recommended, Is indicated:使用を推奨)として推奨されています。

そして新たに肺動脈性肺高血圧症治療を行う場合には第一選択薬の一つとして位置付けられています。


WHO 機能分類クラスIVに対してはエポプロステノール(フローラン)が ClassIで推奨されています。


ベンテイビス吸入液は、ERA、PDE-5 阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬、トレプロスチニル(トレプロスト)と同様に ClassIIa(Should be considered:使用を考慮)の推奨とされています。


また、併用療法ではベンテイビス吸入液を含むPGI2製剤を他の2系統の肺動脈性肺高血圧症治療薬(ERA 及び PDE-5 阻害薬又は sGC 刺激薬)と組み合わせることが推奨されています。


ベンテイビス吸入液は吸入投与なので、既存の他の PGI2製剤に比べて、全身性の副作用の発現抑制や持続静脈内又は皮下注入に関連する合併症(疼痛、血栓症及び敗血症等)がないといったメリットがあります。


しかし、その一方で咳嗽等の局所刺激症状の発現割合が上昇するといったデメリットがあります。

Galie N et al. The Fifth World Symposium on Pulmonary Hypertension.J Am Coll Cardiol 62: D60–72, 2013

既存のPGI2製剤からの切り替えについては、

移行期間や患者集団を適切に選択することで、既存の PGI2製剤(フローランやトルプロスト)からの切り替えが安全で効果的に実施可能です。

フローランやトルプロストの持続静注又は持続皮下注療法を受け症状が安定した、WHO機能分類クラスII又はIIIの肺動脈性肺高血圧症患者において、治療移行期間を設けてベンテイビス吸入液による吸入療法に切り替えたところ、切替え後 1 年まで 81.1%の患者で悪化することはありませんでした。

さらに78.4%の患者はベンテイビス吸入液による吸入療法が継続することができました。

また、肺動脈性肺高血圧症治療薬であるERA 及び PDE-5 阻害薬を2剤又は3剤併用した患者の方が併用しなかった患者より高い割合でベンテイビス吸入液による吸入療法を長期間継続することができたと報告されています。

Channic RN et al.A multicenter, retrospective study of patients with pulmonary arterial hypertension transitioned from parenteral prostacyclin therapy to inhaled iloprost.Pulm Circ 2: 381-388, 2013
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24015339

第5回WHO肺高血圧症ワールドシンポジウムの推奨治療アルゴリズムでは、特定の薬剤をエビデンスに基づいた第一選択薬として推奨していません。

CHESTガイドライン(2014 年)では、患者の WHO 機能分類、運動耐容能、心エコー、血液データ等を総合的に考慮し、肺動脈性肺高血圧症治療の専門医療施設にて第一選択薬を決めることが望ましいとされています。

各薬剤は有効性が評価された各々の臨床試験での患者背景と同一の背景を有する患者に対して推奨されています。

したがって、実臨床では、各治療薬の有効性及び副作用プロファイル、承認効能・効果及び用法・用量、患者背景、患者の希望等を総合的に考慮した上で、第一選択薬が決定されるものと考えられています。


Taichman DB et al.Pharmacologic therapy for pulmonary arterial hypertension in adults: CHEST guideline and expert panel report. Chest 146: 449-475, 2014

ネブライザーはI-neb(PHILIPS社製)を使いましょう

ネブライザは機種により性能,噴霧特性が異なるのでのベンテイビス吸入液の吸入には、臨床試験で有効性が確立されている『I-neb AAD』ネブライザを使用しましょう。

使用にあたっては、ネブライザの取扱説明書を御覧ください。


他のネブライザーではダメなのか

海外臨床試験ではネブライザーとしてHaloLiteとI-nebが使用されていました。

一般に、吸入薬投与にはエアロゾルの粒子径が重要であると考えられています。


Byron PR.Prediction of drug residence times in regions of the human respiratory tract following aerosol inhalation. J Pharm Sci 75: 433-438, 1986
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3735078


HaloLite 及び I-neb のエアロゾルの特性を比較した結果、HaloLite と I-neb で噴霧量、噴霧速度及び液滴粒子径は類似していました。

したがって、ベンテイビス吸入液の肺局所への到達速度や量はネブライザー間で同程度と推測できます。


また、一般に、3μm未満の粒子径の薬物はほとんどが肺胞に到達すると考えられています。

HaloLite、I-neb のエアロゾルの平均液滴粒子径はそれぞれ 1.4 及び 2.1 μm でした。

HaloLite 及びI-neb を用いて吸入投与された本薬のほとんどが肺胞に到達すると考えられます。

さらに、HaloLite 及びI-neb を用いて吸入投与した試験において、AUC はそれぞれ 52.6±36.5 及び 47.7±13.4 ng·h/mL であり、ネブライザー間で同程度でした。


以上より、HaloLite と I-neb では互換可能であると考えられます。


この2機種以外のネブライザーでは使用しないほうが良いでしょう。


吸入時の注意

吸入ごとに新しいアンプル全量を使用直前にネブライザに移します。

4~10分かけて吸入します。

吸入後ネブライザ内に残った液は捨てます。

ベンテイビス吸入液を希釈したり他剤と混合してはいけません。



平成28年4月19日 使用薬剤の薬価(薬価基準)の一部改正等について(保医発0419 第1号)

① 本製剤はプロスタグランジンI2製剤であり、在宅において、携帯型精密ネブライザーを用いて本製剤を投与している患者に対して指導管理等を行った場合は、 医科点数表区分番号「C111」の在宅肺高血圧症患者指導管理料を算定できるものであること。

② 本製剤を肺高血圧症の患者であって入院中の患者以外のものに対して、携帯型精密ネブライザーを使用して投与した場合は、医科点数表「C168-2」携帯型精密ネブライザー加算を算定できるものであること。



C168-2 携帯型精密ネブライザー加算

肺高血圧症の患者であって入院中の患者以外のものに対して、携帯型精密ネブライザーを使用した場合に、第1款の所定点数に加算する。

通知
(1) 本加算は、吸入用のプロスタグランジンI2製剤を使用するに当たり、一定量の薬液を効率的に吸入させるため、患者の呼吸に同調して薬液を噴霧する機構を備えた携帯型精密ネブライザーを使用した場合に算定する。 
(2) 携帯型精密ネブライザー加算には、携帯型精密ネブライザーを使用するに当たって必要な全ての費用が含まれ、別に算定できない。



ベンテイビス吸入液 10 μg
[効能・効果]
肺動脈性肺高血圧症
[用法・用量]
通常,成人にはイロプロストとして初回は 1 回2.5㎍をネブライザを用いて吸入し,忍容性を確認した上で 2 回目以降は 1 回5.0㎍に増量して 1 日 6 ~ 9 回吸入する. 1 回5.0㎍に忍容性がない場合には, 1 回2.5㎍に減量する.