2015年5月27日水曜日

イリボー(ラモセトロン塩酸塩)錠が女性にも処方可能に



2015年5月26日イリボー錠が女性の下痢型過敏性腸症候群の治療に使用することが可能になりました。

効能・効果、用法・用量及び使用上の注意改訂のお知らせ(アステラス製薬)
https://med.astellas.jp/jp/provide.aspx?path=/med/jp/emergency/shiyo/shiyo-20150527070000.pdf


イリボー(ラモセトロン塩酸塩)は選択的セロトニン 5-HT3受容体拮抗薬です。

腸管に存在する 5-HT3 受容体を阻害することにより、排便亢進や下痢を抑制します。

イリボーは2008年7月にフィルムコーティング錠、2013年8月に口腔内崩壊錠が「男性における下痢型過敏性腸症候群」を効能・効果として承認されました。

最初に医薬品製造販売承認を申請時には、女性にも使用できるように申請していたようですが、女性における薬物動態、有効性及び有害事象の発現割合が男性と異なる傾向が認められたため、国がメーカーに対し「女性における」使用については再検討を指示したという経緯があります。

イリボー錠 2.5μg 及び 5μg 審査報告書(平成20年4月10日)
http://www.info.pmda.go.jp/shinyaku/P200800026/80012600_22000AMX01708_A100_1.pdf


今回、「女性における」使用については再検討を行い、男性とは異なる用法用量を設定し、承認されました。


過敏性腸症候群

過敏性腸症候群は、腹痛や腹部不快感をともなう下痢や便秘などの便通異常が慢性的にくり返される疾患のことです。
血液検査や内視鏡検査でも異常が見つからず、原因は不明です。

その病態には消化管運動の異常、内臓知覚過敏、心理社会的要因やストレスなど様々な要因が関与していると考えられています。

機能性消化管障害に関する国際的なワーキンググループである Rome 委員会が提唱するRomeIII基準において、過敏性腸症候群は便形状に基づき、下痢型、便秘型、混合型及び分類不能型にサブタイプ分類されています。

Rome III: The Functional Gastrointestinal Disorders 3rd ed.(Degnon Associates, Inc〈McLean〉): 490-509, 2006
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2701540/

Longstreth GF et al.,Functional bowel disorders. Gastroenterology 130; 1480-1491, 2006
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16678561


日本での下痢型過敏性腸症候群の治療について、「機能性消化管疾患診療ガイドライン 2014―過敏性腸症候群(IBS)」(日本消化器病学会編、南江堂、2014 年)が発行されています。

http://www.nankodo.co.jp/g/g9784524265572/

これによると、まずは食事及び生活指導を行い、必要に応じて薬剤を投与するとされています。

薬剤治療としては、プロバイオティクス・高分子重合体、消化管機能調節薬の他、男性に対しては5-HT受容体拮抗薬が推奨されています。


イリボー(ラモセトロン塩酸塩)の作用機序


セロトニンにより腸管神経節上に存在する5-HT3受容体が活性化すると、腸管の収縮・運動及び水分分泌が促進されます。

下痢型過敏性腸症候群の患者さんでは健康な人と比べて食後のセロトニン分泌が亢進している場合があることが報告されています。

つまり、出すぎたセロトニンが受容体にくっつくのを邪魔して、腸管の収縮・運動及び水分分泌を抑制することで下痢をとめたり腸の働きを良くしたりします。

Hansen MB. The enteric nervous system III: a target for pharmacological treatment. Pharmacol Toxicol 93: 1-13, 2003
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12828568

Siriwardena AK et al., A 5-HT3 receptor agonist induces neurally mediated chloride transport in rat distal colon.J Surg Res 55: 55-59, 1993
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8412082

C Bearcroft, D Perrett, and M Farthing. Postprandial plasma 5-hydroxytryptamine in diarrhoea predominant irritable bowel syndrome: a pilot study. Gut 42: 42-46, 1998
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1726971/


女性の過敏性腸症候群


お腹ゴロゴロ!過敏性腸症状群(IBS)に悩む女性は男性の2倍 | 「マイナビウーマン」

IBSに悩む女性は男性の2倍で、いつでもなりうる症状ですが多くの場合20代から30代で始まるようです。




過敏性腸症候群は病因・病態に男女差があることが知られています。

この要因には、ストレスに対する反応行動、性ホルモン、内臓知覚痛の中枢神経系活性化の違いなどがあり、多くの臨床的及び生理的反応性の違いを生み出していると考えられています。

セロトニンは過敏性腸症候群に関連した消化管運動障害において重要な役割を果たしていることが知られています。

下痢型過敏性腸症候群患者さんでは食後のセロトニン血中濃度の上昇が関与している可能性が報告されています。

女性はエストロゲンやプロゲステロンが低くなる月経期に血中セロトニン濃度が上昇します。

女性の過敏性腸症候群患者さんでは卵巣ホルモンがセロトニンを介し、消化管運動の変化に関与していると言われています。

また、女性の過敏性腸症候群患者さんでは卵巣ホルモン(エストロゲン)が少なくなる月経期に腹痛知覚の増加が観察され、エストロゲンが増えてくる排卵期に痛みが和らぐことから、エストロゲンに腹痛知覚に対する抑制効果があると考えられています。

さらに、セロトニン神経系は末梢における消化管の感受性や痛みに関連した情動回路の調整をおこない、痛みに関連した過敏性腸症候群の症状における男女差に関与している可能性も報告されています。


Mathieu M and Julien M. Gender-related differences in irritable bowel syndrome: Potential mechanisms of sex hormones. World J Gastroenterol 20: 6725-6743, 2014
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4051914/


女性と男性では薬の使い方が違います。


男性
5μg を 1 日 1 回経口投与。 
症状によって投与量を増やしたり減らしたりできますが、1 日最高投与量は 10μg まです。

女性
2.5μg を 1 日 1 回経口投与。 
効果不十分の場合には増やすことができますが、1 日最高投与量は 5μgまでです。


用量調整を行う場合は 1 ヵ月程度の症状推移を確認しなければなりません。

つまり、薬を飲んですぐ効果が無いからといって飲むのをやめたりするのではなく、最低でも1ヶ月は飲み続ける必要があります。

また、今日は「お腹が痛くないから飲まない」というような症状変化に合わせて飲んだり飲まなかったり、頻繁に用量を調整することを行ってはいけません。



安全性について

うんちが硬くなりすぎたり、便秘や腹部膨満感が副作用としてあらわれることがあります。

臨床試験では、いずれも軽度又は中等度のもので、薬を中止することで症状は回復しています。

アメリカにおいて、類似の5-TH3受容体拮抗薬で「虚血性大腸炎」が発現するおそれがあるという報告がされているので、万が一、ひどい腹痛、血便がみられるようであれば、お医者さんに相談しましょう。

Lin Chang MD et al,. Ischemic Colitis and Complications of Constipation Associated With the Use of Alosetron Under a Risk Management Plan: Clinical Characteristics, Outcomes, and Incidences. Am J Gastroenterol 105: 866-875, 2010
http://www.nature.com/ajg/journal/v105/n4/full/ajg201025a.html