2014年8月10日日曜日

LAM治療薬シロリムス(ラパリムス)

■女性の難病:リンパ脈管筋腫症
http://yakuza-14.blogspot.jp/2014/08/blog-post_7.html


シロリムス(別名:ラパマイシン)は、rapamycin標的蛋白質(mammalian target of rapamycin:mTOR)という細胞周期調節蛋白質の活性を抑制する作用を持っています。
シロリムスは免疫抑制剤としてワイス(現ファイザー)が開発したものです。
海外では「腎移植における拒絶反応の予防」に係る効能・効果で89ヵ国で承認されています(2011年9月時点)。
日本では、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社により開発されたシロリムス溶出型ステントに使用されています。


作用機序
LAMはTSC1又はTSC2遺伝子が点変異しています。
この変異で、TSC1遺伝子がコードするHamartinとTSC遺伝子がコードするTuberinの複合体(Tuberin-hamartin complex)が機能を失います。
そうすると細胞周期調節蛋白質であるmTORが恒常的に活性化した状態となってしまいLAM細胞が増殖します。
このようにしてLAMが発症すると考えられています

瀬山邦明(2010)呼吸と循環、58: 1201-1210,


増殖したLAM細胞は、リンパ管内皮細胞増殖因子のサイトカイン(VEGF-C、D)を産生又は発現させます。
これにより、リンパ管新生を亢進させマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)が産生されます。
MMPsが肺組織の破壊及び嚢胞形成を引き起こすと考えられています。

Stacker SA et al,(2002) Metastasis: Lymphangiogenesis and cancer metastasis. Nat Rev Cancer, 2: 573-583

Matsui K, et al.(2000) Role for activation of matrix metalloproteinases in the pathogenesis of pulmonary lymphangioleiomyomatosis. Arch Pathol Lab Med ;124:267-275


シロリムスは、mTOR活性化に伴うLAM細胞のG1期からS期への細胞周期亢進とLAM細胞増殖を抑制します。
さらにVEGF産生亢進及び MMPs 産生とそれに伴う肺組織破壊を抑制します。
これらの作用によりLAMの病態進行の抑制をもたらすと考えられます。

ちなみにシロリムスの免疫抑制作用についても、同様にmTORの活性化を抑制することで、T細胞やB細胞の増殖が抑制され、免疫抑制作用を発現すると考えられています。

Sehgal SN et al,(1994)Rapamycin: a novel immunosuppressive macrolide. Med Res Rev, 14: 1-22, 

Wood MA and Bierer BE,(1994)Rapamycin: Biological and therapeutic effects, binding by immunophilins and molecular targets of action Perspect Drug Discov Design, 2: 163-184,

Aagaard-Tillery KM and Jelinek DF,(1994)Inhibition of Human B Lymphocyte Cell Cycle Progression and Differentiation by Rapamycin. Cell Immunol, 156: 493-507,




妊婦への投与はできるのか
動物実験では催奇形性は認められませんでした。しかし、ラットで胚・胎児毒性(胎児体重の低値及び胎児死亡)が認められました。
このことからシロリムスは妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には禁忌とされています。
また、LAM は妊娠可能な年齢の女性に好発することを踏まえますと、妊娠可能な女性への投与については、
リスク・ベネフィットを十分に理解してもらい、薬を使うかどうかを慎重に判断する必要があります。