2014年7月29日火曜日

精神科でもらえる薬が減らされるのか



精神科にかかっておられる患者さんから
「10月から薬がもらえなくなるのか」という質問を頂きました。

「大丈夫です。そんなことはありません」と回答しました。が、かなり不安らしく説明にかなりかかってしまいました。


メディア等の情報で誤解をされている方が多数いらっしゃるんだろうなと思います。


「精神科で薬がもらえなくなる」というのは、「向精神薬の多剤投与への制限」のことだと思います。
日本が海外と比べて向精神薬の処方剤数が多いことが問題視された結果、2014年4月に改定が行われました。
(急に制度を変えては現場が混乱するので、実際に実施されるのは2014年10月からです)

具体的には、抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬、抗精神病薬を多剤処方した場合の減算規定が新設されました。 
今回の改定で「3種類以上の抗不安薬、3種類以上の睡眠薬、4種類以上の抗うつ薬または4種類以上の抗精神病薬の投薬を行った場合」処方料は20点、処方せん料は30点となります。
今までは処方料は29点と42点、処方せん料は40点と68点でした。


つまり、どこにも薬が減らされる、もらえなくなるとはなっていないのです。


向精神薬をたくさん処方すると、病院の「儲けが減る」だけです。
(患者さんにしてみれば、安くなるのですけどね)


もちろん病院は儲けが減るのを嫌がるので、薬を減らそうとするでしょう。
ですが、処方をしなくなることはないでしょう。


また、厚生局に届出を提出することや精神科専門医であるでことなどの条件をクリアすれば、このペナルティを回避することができます。
私の近所の精神科でも、ペナルティを回避できるそうです。

向精神薬を専門に扱っている精神科に通っておられるのであれば、心配いらないことなのです。




一番困るのは、内科で安易に眠剤や抗不安薬を乱発しているところでしょう。
将来は精神科以外では向精神薬を処方できなくなるのではないでしょうか。


向精神薬の処方制限についての解説(井出草平) - 個人 - Yahoo!ニュースhttp://bylines.news.yahoo.co.jp/idesohei/20140311-00033462/

「抗不安薬や睡眠薬などの向精神薬を数多く処方した場合、診療報酬を原則認めない仕組み」と書いてあるが、これは間違いである。 今回の改定は、所定の種類以上の向精神薬を処方した場合に、病院・クリニック・薬局の収入が減額されるようにペナルティが課されるというものだ。


多剤併用禁止の不思議 - 精神科医の本音日記 
http://d.hatena.ne.jp/satochan8/20140401/1396364644
向精神薬の多剤併用が制限される事になった。効果の証明されてない安易な併用療法が過量服薬による事故を招いていることが社会問題化しているからであろうが、現場の混乱は目に見えている。


向精神薬 多剤処方を制限…診療報酬認めず(内科開業医のお勉強日記)
http://kaigyoi.blogspot.jp/2014/03/blog-post_8664.html
多医療機関受診患者が大きく問題となるだろう。精神科外では、基本的には、向精神薬多剤処方はできないということを周知してもらわねば。

3位じゃ駄目なんです!(続き) ハヤノヤクヒン
http://hayanoya.exblog.jp/m2014-03-01/
今回の多剤投与規制は役所が考えたにしては割と妥当なラインに落ち着いているように思います。一番割を食うのは大量の睡眠薬を要求する患者(たいてい自己負担無し)なので、これを減らす役には立つかも知れません。今度は薬目的の複数医療機関同時受診が問題になるかも知れませんが、それはまた別の規制によって修正されていくことでしょう。






【参考】診療報酬の算定方法の一部を改正する件(告示)平成26年厚生労働省告示第57号

F100 処方料
3種類以上の抗不安薬、3種類以上の睡眠薬、4種類以上の抗うつ薬又は4種類以上の抗精神病薬の投薬(臨時の投薬等のものを除く。)を行った場合20点

「1」について
ア 当該保険医療機関が、1回の処方において、抗不安薬を3種類以上、睡眠薬を3種類以上、抗うつ薬を4種類以上又は抗精神病薬を4種類以上投与(以下「向精神薬多剤投与」という。)した場合に算定する。ただし、以下の(イ)から(ニ)のいずれかに該当する場合には、「1」の所定点数は算定せず、「2」又は「3」により算定する。なお、この場合においては、診療報酬明細書の摘要欄に向精神薬多剤投与に該当するが「1」の所定点数を算定しない理由を記載すること。

(イ) 精神疾患を有する患者が、当該疾患の治療のため、当該保険医療機関を初めて受診した日において、他の保険医療機関ですでに、向精神薬多剤投与されている場合の連続した6か月間。この場合、診療報酬明細書の摘要欄に、当該保険医療機関の初診日を記載すること。

(ロ) 向精神薬多剤投与に該当しない期間が1ヶ月以上継続しており、向精神薬が投与されている患者について、当該患者の症状の改善が不十分又はみられず、薬剤の切り替えが必要であり、既に投与されている薬剤と新しく導入する薬剤を一時的に併用する場合の連続した3か月間。(年2回までとする。)この場合、診療報酬明細書の摘要欄に、薬剤の切り替えの開始日、切り替え対象となる薬剤名及び新しく導入する薬剤名を記載すること。

(ハ) 臨時に投与した場合。(臨時に投与した場合とは、連続する投与期間が2週間以内又は14回以内のものをいう。1回投与量については、1日量の上限を超えないよう留意すること。なお、投与中止期間が1週間以内の場合は、連続する投与とみなして投与期間を計算する。)なお、抗不安薬及び睡眠薬については、臨時に投与する場合についても種類数に含める。この場合、診療報酬明細書の摘要欄に、臨時の投与の開始日を記載すること。

(ニ) 抗うつ薬又は抗精神病薬に限り、精神科の診療に係る経験を十分に有する医師として別紙様式39を用いて地方厚生(支)局長に届け出たものが、患者の病状等によりやむを得ず投与を行う必要があると認めた場合。なお、ここでいう精神科の診療に係る経験を十分に有する医師とは以下のいずれにも該当するものであること。

① 臨床経験を5年以上有する医師であること。 
② 適切な保険医療機関において3年以上の精神科の診療経験を有する医師であること。なお、ここでいう適切な保険医療機関とは、医師に対する適切な研修を実施するため、常勤の指導責任者を配置した上で、研修プログラムの策定、医師に対する精神科医療に係る講義の提供、症例検討会の実施等を満たす保険医療機関を指す。 
③ 精神疾患に関する専門的な知識と、ICD-10(平成21年総務省告示第176号(統計法第28条及び附則第3条の規定に基づき,疾病,傷害及び死因に関する分類の名称及び分類表を定める件)の「3」の「(1) 疾病,傷害及び死因の統計分類基本分類表」に規定する分類をいう)においてF0からF9の全てについて主治医として治療した経験を有すること 
④ 精神科薬物療法に関する適切な研修を修了していること。

イ 抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬及び抗精神病薬の種類数は一般名で計算する。また、抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬及び抗精神病薬の種類については、別紙36を参考にすること。

ウ 向精神薬多剤投与を行った保険医療機関は、年に1回、向精神薬多剤投与の状況を別紙様式40を用いて地方厚生(支)局長に報告すること。



抗不安薬
 オキサゾラム
 クロキサゾラム
 クロラゼプ酸二カリウム
 ジアゼパム
 フルジアゼパム
 ブロマゼパム
 メダゼパム
 ロラゼパム
 アルプラゾラム
 フルタゾラム
 メキサゾラム
 トフィソパム
 フルトプラゼパム
 クロルジアゼポキシド
 ロフラゼプ酸エチル
 タンドスピロンクエン酸塩
 ヒドロキシジン塩酸塩
 クロチアゼパム
 ヒドロキシジンパモ酸塩
 エチゾラム
 ガンマオリザノール

睡眠薬
 ブロモバレリル尿素
 抱水クロラール
 エスタゾラム
 フルラゼパム塩酸塩
 ニトラゼパム
 ニメタゼパム
 ハロキサゾラム
 トリアゾラム
 フルニトラゼパム
 ブロチゾラム
 ロルメタゼパム
 クアゼパム
 アモバルビタール
 バルビタール
 フェノバルビタール
 ペントバルビタールカルシウム
 トリクロホスナトリウム
 クロルプロマジン、プロメタジン、フェノバルビタール
 リルマザホン塩酸塩水和物
 ゾピクロン
 ゾルピデム酒石酸塩
 エスゾピクロン
 ラメルテオン

抗うつ薬
 クロミプラミン塩酸塩
 ロフェプラミン塩酸塩
 トリミプラミンマレイン酸塩
 イミプラミン塩酸塩
 アモキサピン
 アミトリプチリン塩酸塩
 ノルトリプチリン塩酸塩
 マプロチリン塩酸塩
 ペモリン
 ドスレピン塩酸塩
 ミアンセリン塩酸塩
 セチプチリンマレイン酸塩
 トラゾドン塩酸塩
 フルボキサミンマレイン酸塩
 ミルナシプラン塩酸塩
 パロキセチン塩酸塩水和物
 塩酸セルトラリン
 ミルタザピン
 デュロキセチン塩酸塩
 エスシタロプラムシュウ酸塩

抗精神病薬(〇印は非定型抗精神病薬、△は持続性抗精神病注射薬剤)
<定型薬>
 クロルプロマジン塩酸塩
 クロルプロマジンフェノールフタリン酸塩
 ペルフェナジンフェンジゾ酸塩
 ペルフェナジン(塩酸ペルフェナジン)
 プロペリシアジン
 トリフロペラジンマレイン酸塩
 フルフェナジンマレイン酸塩
 プロクロルペラジンマレイン酸塩
 レボメプロマジン
 ピパンペロン塩酸塩
 オキシペルチン
 スピペロン
 スルピリド
 ハロペリドール
 ピモジド
 ゾテピン
 チミペロン
 ブロムペリドール
 カルピプラミン塩酸塩水和物
 クロカプラミン塩酸塩水和物
 カルピプラミンマレイン酸塩
 スルトプリド塩酸塩
 モサプラミン塩酸塩
 ネモナプリド
 モペロン塩酸塩
 レセルピン
△ ハロペリドールデカン酸エステル
△ フルフェナジンデカン酸エステル

<非定型薬>
〇△リスペリドン
〇 クエチアピンフマル酸塩
〇 ペロスピロン塩酸塩水和物(ペロスピロン塩酸塩)
〇 オランザピン
〇 アリピプラゾール
〇 ブロナンセリン
〇 クロザピン
〇 パリペリドン
〇△パリペリドンパルミチン酸エステル