2014年7月25日金曜日

抗結核薬デラマニド (デルティバ錠50mg)


デラマニドは、大塚製薬株式会社が開発した抗結核薬です。ニトロ-ジヒドロイミダゾ-オキサゾール誘導体に分類されます。


作用機序

作用機序は、抗酸菌に特異的なミコール酸の生合成を阻害することにより抗結核作用を示すとされています。
同様にミコール酸合成阻害作用を有するイソニアジドは休眠型結核菌に作用しないことが知られていますが、デラマニドについてはどうなのでしょうか。

イソニアジドは、結核菌が有するKatG酵素により代謝され、NADと結合し、ミコール酸合成経路の重要な酵素の一つであるInhAを抑制することにより、ミコール酸のすべてのサブクラス(アルファ、メトキシ、ケト)の合成を阻害することが報告されています。
KatGは酸素依存的に活性を示すことが明らかになっています。結核患者由来の肺組織の乾酪壊死層(嫌気部位)の結核菌の遺伝子発現量解析から、KatG の発現が低下していることが確認されていることを踏まえると、嫌気状態である乾酪壊死層の菌体内ではKatGによるイソニアジドの代謝が低下し、イソニアジドが活性化されないことにより、イソニアジドが休眠型結核菌に抗菌活性を示さないと考えられています。

デラマニドは、ミコール酸のサブクラスのうち、メトキシ及びケトの産生を阻害し、アルファミコール酸及び非極性脂肪酸に対する阻害は認められませんでした。つまりイソニアジドとは異なる作用点によりミコール酸合成を阻害していると考えられます。
そしてデラマニドの活性化に必要な酵素は酸素非依存的なRv3547と考えられています。したがってデラマニドは休眠型結核菌内でも活性化されることにより、休眠菌にも効果を示すと考えられます。

デラマニドを作用させることでミコール酸合成経路の中間体であるハイドロキシミコール酸が蓄積します。
このことから、デラマニドはハイドロキシミコール酸からメトキシミコール酸の生合成を行うMmaA3(Rv0643c)及びハイドロキシミコール酸からケトミコール酸の生合成を行う酵素の反応を阻害していると考えられます。



デラマニドは、既存の抗結核薬に感受性及び耐性を示す結核菌株のいずれに対しても抗結核作用を示します。さらに既存の抗結核薬との交叉耐性は認められていません。


Vilcheze C and Jacobs WR,(2007)The Mechanism of Isoniazid Killing: Clarity Through the Scope of Genetics. Annu Rev Microbiol, 61: 35-50, 

Zabinski RF and Blanchard JS,(1997)The Requirement for Manganese and Oxygen in the Isoniazid-Dependent Inactivation of Mycobacterium tuberculosis Enoyl Reductase. Journal of the American Chemical Society, 119(9): 2331-2332,




結核治療の現状

結核の標準治療は、リファンピシン、イソニアジド、エタンブトール及びピラジナミドの4剤併用による2カ月間の強化療法に続きリファンピシン及びイソニアジドの併用による4カ月の維持療法を行うとされています。薬が効けば治癒率は90%とされています。一方、薬が効きにくくなっている多剤耐性肺結核患者では、最適な治療プログラムを行った場合でも治癒率は50~70%とされ、死亡率は25%と報告されています。

2008 年にWHOが発表したガイドラインでは、多剤耐性肺結核はリファンピシン及びイソニアジドに耐性を示すことから、多剤耐性肺結核患者に対して、両薬剤を含む標準治療が使用できないことから第1選択薬であるエサンブトール及びピラジナミドに第2選択薬である注射用抗結核薬のカナマイシン、アミカシン、カプレオマイシン又はストレプトマイシンのいずれか1剤及びフルオロキノロン系抗菌薬レボフロキサシン、モキシフロキサシン又はオフロキサシンのいずれか1剤を加えた4剤での治療法を推奨しています。

しかし、これら4剤のいずれかが薬剤耐性又は副作用等の理由により使用できない場合にはその他の第2選択薬パラアミノサリチル酸、サイクロセリン、terizidone、エチオナミド又はプロチオナミドより1 剤以上を追加して治療を行うこととされています。
ただ、使用可能な薬剤は限られているのが現状です。また、多剤耐性肺結核の治療期間は、注射用抗結核薬を含めた強化療法期間を少なくとも6カ月設け、培養陰性化後18カ月間治療を継続することとされています。日本において、2008年に日本結核病学会治療委員会が発表した提言では、リファンピシン及びイソニアジドに耐性の結核に対して、ピラジナミド、エサンブトール及びストレプトマイシン等の注射用抗結核薬及びフルオロキノロン系抗菌薬を含む治療が推奨されています。

日本では、年間110~120例の多剤耐性肺結核患者が発生しているとされています。
また第一選択薬であるイソニアジド及びリファンピシンに加えてカナマイシン等の注射用抗結核薬及びフルオロキノロン系抗菌薬に対しても耐性を示す超多剤耐性肺結核の多剤耐性肺結核全体に占める割合が諸外国よりも高いことが報告されています。

World Health Organization (WHO). Global Tuberculosis Control 2010. Geneva: WHO; 2010.

Orenstein EW et al,(2009) Treatment outcomes among patients with multidrug-resistant tuberculosis: systematic review and meta-analysis. Lancet Infect
Dis.; 9(3): 153-161.



安全性:QT 延長について

添付文書の警告欄に「本剤の投与によりQT 延長があらわれるおそれがあるので、投与開始前及び投与中は定期的に心電図検査等を行い、リスクとベネフィットを考慮して本剤の投与を慎重に判断すること」と注意喚起がなされています。
臨床試験においてQT延長が認められた例がありました。その例では急性心筋梗塞及び冠動脈疾患が認められたので、冠動脈疾患を有する患者には、慎重に投与する必要があります。QT延長について投与前の注意や投与中の検査による確認が必要です。
日本ではデラマニドの投与対象となる患者は高齢者が比較的多いことが推測されます。QT延長リスクが高い人たちです。十分な注意喚起が必要でしょう。


Responsible Access Program(RAP)

抗結核薬の不適切な使用による耐性菌の発生リスクを防止し、本剤の安全性確保を確実に遂行する必要があることから、適正使用に関連する対策として、納入制限
を伴うResponsible Access Program(RAP)が実施されます。

RAPとは、
① 適格性確認システムによる薬剤供給適否の判断
② 全例調査による確実な安全性情報収集
③ 医療従事者及び患者への情報提供
④ 添付文書での注意喚起
から構成されるプログラムのことです。

①の適格性確認システムによる薬剤供給適否の判断については、以下のとおり実施されるようです。
1)患者の同意取得後、本剤投与の適格性を判断するために必要な情報(施設名、使用予定症例等)について、医師が患者登録用のサーバに入力する。 
2)患者登録用サーバに登録された内容に基づき、本剤を使用した際の有効性、安全性の懸念を第三者委員会へ諮問する(第三者委員会は,日本結核病学会治療委員会作成の使用指針及び添付文書を基にした第三者委員会内規に従い評価する)。第三者委員会からの使用に関する適否及び助言を得た後,申請者において、薬剤供給の適否を判断する。 
3)薬剤供給が「適」と判断された場合には、当該施設での全例調査の依頼を申請者より実施するとともに、本剤の適正使用に関する情報を提供した上で、薬剤の供給を行う。 
4)本剤投与継続の適否について、90日ごとに使用経過報告(喀痰塗抹培養結果、薬剤感受性結果、併用薬剤)を医師より入手し、第三者委員会で評価する。第三者委員会は、培養陰性化が得られておらず耐性化のリスクが高い症例について、本剤使用中止の助言を行う。




デラマニドは、多剤耐性結核を適応疾患として承認されました。今後も、他の薬剤が使用可能になる可能性が高いくなっています。これらの新薬は、広く使用した結果、予期しない副作用や薬剤相互作用などが経験される可能性があります。その臨床情報を集積、分析することにより、効果と副作用の面で既存の抗結核薬に劣らないと判断され、使用対象が拡大される可能性もあります。そのためには、発売当初からの適正な使用と、使用症例についての情報の集積とその分析が必須であると考えられます。