2011年6月9日木曜日

メタボリックシンドローム、糖尿病の効果的な生活指導

メタボリックシンドロームの患者さんや糖尿病の患者さんで生活指導などアドバイスをしても聞く耳を持たず、いったん聞き入れても長続きしない方が多くいらっしゃいます。

何か効果的な指導方法などあるのでしょうか。


「やって見せて 言って聞かせて やらせてみて ほめてやらねば 人は動かず」


山本五十六の有名な言葉に込められた「モデリング」という手法が1つのヒントになるかもしれません。

モデルは、うまく行動変容された職場の同僚や友人、家族がよいでしょう。やる気が無い人でも上司や同僚など周りの変貌には影響されてしまいます。

「あいつにできておれにできないわけがない」理論です。

だれか、メタボや糖尿病を克服したひとが近くの人に言って聞かせて、やらせてみて、褒めてもらうのが一番の解決方法かも知れません。


そんな都合のいい人は見つからないので、もう少し考えてみます。。。


まず、運動療法や食事療法が長続きしない原因は何なのでしょうか。

1.自分自身がやりたいことをやっていない。
2.続けるべきと納得していない。
3.技術的にも能力的にも無理がある。

これらのうち一つでも当てはまると長続きは難しいでしょう。

逆に考えるとやりたいことをやってみて、うまくいくことを確認し、更にやり続けることを納得し、技術的に最適化されたものを考えればうまくいくということです。

”やる気”=目標の魅力✕危機感✕達成可能性

上の式が成り立ちます。

さらに”やる気”につながる3つの欲求は
①人に支配されたくない
②結果がわかる・褒められる
③人と関わっていたい
というものです。

Deci El, et al.,  Penguin, USA, 1996.
Why We Do What We Do: Understanding Self-Motivation


”やる気”を醸成させるために
①自分で決める・多くの中から選ぶ
②結果がわかる・褒められる
③周りから応援される・支えられる
という工夫を盛り込んで生活習慣の改善を指導してみたい。

しかし、”やる気”を促進する工夫を盛り込んでも、やみくもにやらせるのではうまくいかないでしょう。

そこで「ステージ別アプローチ」を考えてみる。

ステージ別アプローチとは

(1)前熟考期(始めるつもりはない)
(2)熟考期(始めるつもりだが迷っている)
(3)準備期(すぐ始めるつもり)
(4)行動期
(5)維持期

の5つのステージに分けて対応する考え方です。

Prochaska, J. O., W. F. Velicer, et al. (1988). "Measuring processes of change: Applications to the cessation of smoking." Journal of Consulting and Clinical Psychology 56(4): 520-528.

ポイントは、前熟考期、熟考期レベルの段階ではあせらず、指導しないことです。

寄り添い、強固な人間関係を構築するために注力することです。

否定的な言葉は避ける。

そして、問題を患者さん自身で引き取れるまでじっと待ち続けることです。

準備期まで待ち、はじめて生活習慣の改善について触れ、決断を患者本人に委ねます。

その際、小さな現実的な行動変化を目標に立て、実行期には段階的に達成感を味わえるようにします。


最後にオススメの本を紹介します。
「他者の気持ちは”動かす”ものではなく、身体とこころの診療を通じて、それが”動き出す”のを見守り続け、付き合い続けること」


糖尿病医療学入門―こころと行動のガイドブック
石井 均
医学書院
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